二極化するデザインの現場

2019.02.06 Wed
カテゴリー ▶︎  Branding Design Other Web

僕はデザイナーになってかれこれ14年近くなるのですが、アシスタント時代から比べると、世の中のデザインへの認識も制作する環境もだいぶ変わりました。
小難しい話は別としても、印刷所に納品の際、バイク便を呼んで入稿データを飛ばすこともなくなりましたし、1書体2万円もしていた日本語の書体も年間5万円で使いたい放題になり、制作環境もよくなりました。
世間のデザインに対する認識も、経営に必要で大きな影響を与えるものとして、少しですが認知されつつあるように思います。
これらのことはデザインの現場を向上させる大きな環境変化で、効率こそは上がりましたが、クリエイティブとしての向上を実感することは、残念ながら少ないように感じます。
なぜなら、デザイン事務所や広告代理店には、極端に雑な会社と丁寧な会社に二極化しているように思えるからです。
今日はどんな風に2極化しているのか、僕なりの感想をかきました。

求められているもの

主観ですが、グラフィックやウェブデザイン業界の中では、UXとブランディングの二つのワードが、比較的注目度が高いように思います。
UXはユーザーエクスペリエンスの略で、お客様を徹底的に理解し、お客様にどんな体験をさせることが望ましく成果に繋がるのかを考え実行する行為を指します。
一方ブランディングは自社の強み、特徴、理念を深く理解し、唯一無二のらしさあふれる会社像をつくりあげることで、自社へのファンを増やし、高付加価値を生む戦略のことをさします。

これらは多様化する社会やニーズを捉えるだけでなく、モノからコトへとサービスが変わった成熟社会に適した考え方と施策です。
しかし、ブランディングに関しては日本が遅れているだけであって、
何十年も前から外資系の広告代理店は行なっていたもので、決して新しいものではありません。
差別化が難しくなった現代において、ようやく普及されてきたにすぎない状況です。
UXも考え方自体は決して新しいものでもないのですが、ウェブの普及やノウハウの充実によって、一気に広まりました。

これらはPR活動の中においては、あくまで一つの手段にしかすぎないのですが、ただ一つ言えることは、ユーザーや自社をしっかり知ること、その上で施策を考えないといけないということ。
当然ですが、1人よがりでは決してダメということで、それはデザインを作る際、丁寧なステップ、もしくはトライ&エラーをして確実なものにしていく姿勢が、今あらためて求められていることだとろうと捉えています。

実際の現場で感じること

僕はコードマークという屋号でフリーランスのデザイナーとして、直接クライアントから依頼をいただくことが多く、様々な案件に取り組んでいます。

一方で、デザイン事務所やディレクター、広告代理店からも制作協力をいただくこともあります。
外部のデザイナーやディレクターと関わるのは、こういった時がほとんどです。また同業者が集まる勉強会や懇親会などで、色々とお話を聞かせていただくことも多くあります。

こうして同業他社の方と関わらせていただいて思うのは、二極化しつつあるという現状です。
デザインという枠を超え進化しているデザイン事務所が増えた反面、僕がアシスタントをやっていた10数年前と、何も変わらないどころか、むしろ雑になっている事務所も増えたなーと感じています。

陳腐化するブランディング

ブランディングという言葉を実際に深く理解している人はあまり多くはないと思いますが、幾分浸透してきたように思います。
以前はブランディングというとロゴのことだと勘違いしていた人も多かったですが、今は企業の経営活動として、捉えている人も多くでてきました。

ブランディングを多分に学んでいるデザイン事務所も多く、専門的な知識はコンサルタントだけではなくなってきました。
経営層までグイグイと中に入りブランドを作るデザイン事務所が増え、いわゆる「制作会社」とは一線を画すプロジェクトを担っている会社が増えました。

ただ、その真逆でブランディングという言葉の持つイメージが陳腐化しつつあり、ブランディングに深く精通しているデザイン事務所等は、ブランディングという言葉を使いたくないとすら思っています。

企業のイメージ改善と勘違いしているケース

「ブランディングに効果的!」などの謳い文句をつかっているPR会社のHPや、「私たちは人を大事にしているから人感を出した広告にしよう」といったクライアント企業の要望を見ていると、ブランディング = イメージをよくする活動と捉えている節があるように感じます。

自分たちが目指すブランド像を顧客に抱いてもらえるように一貫性をもって、継続的に、そして意図的に行うのがブランディングなのですが、安直に「イメージをよくしよう。人を大事にしている感をだそう」ということで「ブランディングだね!」となっているケースが多い気がします。

クライアント企業がそう捉えているのは、無理もありません。専門外ですから当然です。勘違いしていてなんぼです。
ただこれをデザインに精通するディレクターが勘違いしているケースが、ものすごく多い!
本当にこれは感じます。
ブランディングのスキルを上げていくデザイン事務所が増えていく一方で、ブランディングを陳腐化させるような提案をディレクター自らしているケースが多くあり、本格的に取り組む会社と、そうでない会社との差が激しくなってきたように思います。

これがデザイン事務所を二極化していると実感する要因1つ目です。

コンペのしがらみ

コンペを取り巻く状況

コードマークではコンペ形式の案件はほとんど受注しないのですが、多くのデザイン事務所や広告代理店はこの「コンペ形式」で仕事をとってきます。
コンペ形式とはクライアントが発注先を決めるために、デザインと企画案をデザイン事務所や代理店に依頼し、採用されたデザイン事務所や代理店にのみ、クライアントはお金を支払う仕組みです。

なぜこのような形でクライアント企業は依頼するのかというと、「まだ見ぬ物」にお金を払う不安がありますし、社内稟議を通すためや、コンプライアンスの関係で説得材料が必要なわけです。
コンペで提案されるものは、具体的な企画書だけでなくデザイン案も添付されていますので、これらの不安要素がなくなりますし、見積書もある程度具体性がでてくるため、ジャッジがしやすいのです。

制作側は受注できなかったらお金がもらえないという非常にリスキーな状況に立たされる反面、価格だけでなくアイディアや実力で勝負できる利点があります。
ただ、やはり理不尽なことも多く、世界ではこういうのをやめようという運動もでています。

https://www.youtube.com/watch?v=essNmNOrQto

コンペの悪影響

コンペ形式はクライアント企業にとっては一見都合のいいものに見えますが、デメリットも多くあります。ちゃんと案件に向きあえば向きあうほど、コンペで業者は選んではいけないとさえ、僕は思っています。
なぜかというと制作側が勝手な憶測で作っているに過ぎないからです。

コンペ形式というのは、営業マンが1〜2時間担当者から情報を聞いて、それをもとにデザイナーやディレクターがHPやパンフレットなどに目を通して「これってたぶんこうなんじゃね?」と仮説を立てて、企画をねります。
もちろん仮説は大切ですし、プロが目を通すことで発見できる問題点もあります。ですが、問題なのはデザイン事務所とクライアント企業がコミュニケーションをほとんど取らずに行うところです。

以前、「御社の独自性は。。。」と記載のあったコンペで提案した企画書を拝見したことがあります。
僕はブランディングに力をいれているのでよく分かるのですが、独自性を見つけるのは、とっても大変です。そんな簡単に見つけられるわけがない。
そんなちょっとの情報で一方的にデザイン事務所が簡単に見つけられるわけないんです。

これは、冒頭に書いたようなUXやブランディングという言葉が注目される背景を考えると、逆行したやり方だと考えています。
そして素人判断に企画のジャッジが委ねられるので、クライアント企業に判断できるだけの知識がないことだって多い。さらに提案する側も「いいもの」ではなく、「勝つもの」を提案してしまいます。

こうした状況を踏まえてコンペ案件を受けない企業も増えていますが、広告代理店から仕事の大半を受注しているようなデザイン事務所は断ることもできず、結果的に新しい手法を取り入れ実践する機会に恵まれないデザイン事務所が、多く存在します。また、コンペ案件が習慣化しすぎてしまい、今のやり方に疑問も持たず変えようともしないデザイン事務所も多い現状です。
そうした状況から力の差やサービスの差が生まれてきているのだと、僕は思っています。

これがデザイン事務所を二極化していると実感する要因2つ目です。

テンプレート化するウェブデザイン

ウェブの普及によってデザインの考え方は大きく変化しました。
ブランディング活動も活発化し、納品したら完成だったデザインは更新や運営を踏まえて、納品という概念が弱くなり、企業と長く付き合い、継続的な施策が求められるようになりました。

UXデザインなど、成果を出すためのプロセスを踏んで制作する現場も増えましたし、リンク数合戦だったSEOは、コンテンツが重視された施策に変わり、それが結果的にブランディングにも貢献するものへと発展しました。
色々ありすぎて、企業のウェブ担当者は何をしていいか頭を抱えるぐらいです。予算もすべて行うと高額になって、きりがない。

当然デザイン事務所も得意不得意があり、通販などの数字が明確にでるものを得意とする会社もありますし、ブランドイメージを伝えるサイトを作るのが得意な会社もあります。
ウェブサイトはそれだけ進化し可能性をもった媒体なので、案件に合わせて、より効果のあるサイトは何か、多くのデザイン事務所は日々奮闘しています。

簡素化するデザイン企画と手抜きディレクション

一方でウェブサイトはレスポンシブデザイン(見ている画面サイズに合わせてレイアウトが最適化されるウェブサイト)が一般的になり、制限的な問題や流行りもあり、レイアウトは画一的なものが増えました。

そしてデザインの現場では効率化も進み、打ち合わせ回数が減りました。
こうした状況からか、耳を疑うようなあまりにも簡素で雑な企画や進行を目の当たりにすることが、かなりあります。それは業界全体として昔より増えた実感があります。

たとえば、「とりあえずポップにつくって。以上。」とか。
「人たくさん使ったデザインにして。以上。」とか。
「雰囲気で。以上。」とか。
予算がないという事情もありますが、本当にそれ以外、何も意図やバッググラウンドもなく、それだけの要件定義だけでデザイン制作が進めてしまうデザイン事務所が事実あるんです。

様々に進化するウェブの現状やデザインの進化と異なり、テンプレート化する現状に甘えた手抜きディレクションが増えているように思えます。さすがにコンペ案件で、こういった雑な提案は少ないとは思いますが、受注が決定している案件に対して、こうした雑な企画だけでウェブサイトを制作している現場が実際にあります。

これがデザイン事務所を二極化していると実感する要因3つ目です。

二極化するデザインの現場

このように高度な専門性を持ったデザイン事務所が増えるのと反比例して、鬼のような簡素化や、注目度の高いワードは宣伝文句とだけ利用されて、納品されていく現場が増えたように思います。

ただ高度な専門性ってとても大変です。そうしたくてもできない現場だってあります。
「金額も高くなり、時間もかかる、やりたくたってリソースがない、どうやってスキルをあげれるかわからない、クライアントが協力的じゃない、などなど理由はたくさんあります。
こんな記事を生意気にも書いている僕だって似たような悩みは当然あって、日々奮闘しています。

しかし効率化にかまけて、あぐらをかいているディレクションや、古き習慣を何も疑いもせずに進化させないスタンスなどは、見習いたくないなーと思います。
そのうちドンドンAIが発展し、WIXなどの自分でデザインが作れるサービスが高度化して、さらにはクラウドソーシングのあり方も変化して力をつけた時、あぐらをかいた経営をしているデザイン事務所は、淘汰されていくのだと思います。

デザイナーなんて、必要ない。そう言われないように、なんとかふんばりたいものです。

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コードマークはブランディングデザインの手法を用い、企業のみなさまの意志を深く理解したうえで、貴社にフィットした制作物、制作プロセスのご提案をいたします。

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